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更生支援事業団参与から寄稿がありました。

【提案】拘禁刑導入と職員定員割れを踏まえた矯正業務へのAI活用について

―更生支援事業団参与・山本孝志―

① はじめに

新年度を迎え、全国の刑務所では、間もなく施行される「拘禁刑」の導入に向けた準備が着実に進められていることと存じます。
 この制度のもと、矯正の担う役割はさらに重みを増し、国民からの期待もいっそう高まっています。

私自身も、かつて現場で勤務し、所長として職員とともに日々の業務に向き合ってきました。現在は更生支援事業団の参与という立場におりますが、ときおり、かつての部下や関係者から、拘禁刑に向けた意気込みとともに、新たな制度や業務の変化に対する戸惑いや不安、悩みを含んだ声が届くことがあります。

現場に寄り添ってきた者として、そうした声を受け止めながら、私なりに何か少しでもお役に立てることはないかと考えるようになりました。
 本稿は、そうした思いから、あくまで一人の元矯正職員として、現場の視点からお伝えしたい小さな提案です。

② 現場に広がる課題感と社会的背景

現在、矯正施設では、業務の多様化・複雑化が進む一方で、定員割れや人手不足といった課題が依然として存在しています。
 これは矯正の世界に限らず、社会全体で広く見られる傾向でもあります。

特に若年層の間では、次のような調査結果が報告されています:

  • 第二新卒者の8割以上が「職場で人手不足を感じている」と回答(エキサイトニュース/2024年2月)
  • 新入社員の27.1%が「仕事に正解がなく、どうすればよいか分からない」と悩んでいる(労務ドットコム/2023年12月)
  • 一方で、82.0%が「やる気はある」と回答し、成長機会を求めている(マピオンニュース/2024年4月)

矯正の現場でも、日々の業務の中で、こうした不安や模索に直面している若手職員がいるように感じます。
 しかし、そうした中でも彼らは、自分たちの役割や使命を見失うことなく、真摯に努力を重ねています。その姿には、私も元職員として胸を打たれるものがあります。

③ 提案:AIの活用による業務支援

そうした現場の負担を少しでも軽減し、職員の力を本当に必要とされる場面に集中できるようにするために、AI(人工知能)の業務支援的な活用が一つの可能性としてあるのではないかと考えております。

すでに当局におかれましても、何らかの形で新技術の導入・検討が行われているのかもしれません。そのような中で恐縮ながら、ここでは現場での活用を想定した一提案として、以下のような具体例を挙げさせていただきます。

想定される活用例:

  • 報告書作成の支援
     例:実力行使時の報告書作成において、AIが記載要素をガイドし、初任者でも漏れなく記録できるよう支援。
  • 緊急対応時の助言
     例:異常事態が発生した際、音声入力により初動対応の基本的な手順を提示し、冷静な判断を補助。
  • 文書作成・業務の補助
     例:行事案内文、訟務文書の下書き、法令や過去事例の検索等の業務効率化。

なお、セキュリティに関しては、インターネット非接続のスタンドアロン端末での運用といった方法もあり、慎重な導入によって安全性との両立も可能であると考えております。

④ 一歩ずつでも、現場のために

施設幹部や上級官庁の皆さまもまた、日々多忙を極める中で、現場を支えるためにご尽力されていることと拝察いたします。だからこそ、今は誰かを責めたり、足並みを乱したりするのではなく、同じ方向を見据えながら、できるところから一歩ずつ取り組んでいくことが求められているのではないでしょうか。

私たち矯正に関わる者すべてが、目指すところは同じ――
すなわち「受刑者の改善更生」と「社会の安全の確保」です。

現場の職員が、その力を本当に必要な場面に発揮できるように。そして、自らの仕事に誇りを持ち、いきいきと働ける環境が整うように。

矯正が拘禁刑導入に軟着陸し、国民の負託に応えていく、そうした未来への一助となることを願いながら、ささやかな提案としてお届けいたします。
ご検討の一材料としていただければ幸いです。